気になる「孤立した言語」たちについて〜Google翻訳ウィジェットで多言語対応?しました

先ほど、右列の下部にGoogle翻訳のウィジェットを置いてみました。プルダウンから表示させたい言語を選択するだけで、このホームページが世界中の言語に早がわり。これがなかなか楽しいもので、

アイルランド語(ゲール語)はもちろん、

ロシア語スクショ

ロシア語や、

ジョージア語スクショ

ジョージア語グルジア語とも。くるくるしていてかわいいですよね)、

イディッシュ語スクショ

イディッシュ語(シュッとしててかっこいい)でも表示させることができます。

よくよくみてみると、翻訳は全体的にあやしいです。例えば「鳩の自由研究」は自由が金銭的なFree、無料の意味として解釈されがちで、「鳩の無料学習」的な翻訳になっていることが多いです。まあ、実際海外の方にこのサイトが読まれる機会はそこまで多くないでしょうし、そこは大した問題ではないでしょう。

あやしい翻訳だとしても、これだけいろいろな言語に手軽に触れられるというのはむしろありがたいことです。その言語を操る人たちにとって、言語は文化を形作っていくものですし、また彼らの文化こそが言語の特徴を規定していきます。いろいろな言語を調べてみると、その言語が成立した背景や、話してきた人々の歴史に想いを馳せることができる気がするのです。

孤立した言語たち

そのような世界の言語の中で、周囲の地域の言語とまったく違う言語というのがいくつかあります。そのような言語を言語学では「孤立した言語」と呼ぶそうです。日本語もそのような類の一つで、どの言語を元にして生まれた言語なのかはいまだに結論が出ないそうです。もっとも、言語学的には琉球語を別言語とみなして「日本語族」と呼ぶ場合もあるそうで、その場合は孤立した言語には含まれない(言語の集団と見做される)そうです。
なぜ「孤立した言語」は孤立することになってしまったのでしょうか。

バスク語

スペインとフランスにまたがるバスク地方にて話されるバスク語(euskara)。この言語は周囲の言語とはかなり隔たりがあり、

悪魔がバスク人を誘惑するためにバスク語を習ったが、7年かかって覚えたのは『はい』と『いいえ』だけだった。

https://ja.wikipedia.org/wiki/バスク語#バスク語学習の神話

なんていう笑い話があるほど習得が難しいと考えられているそうです。インド・ヨーロッパ語族(ラテン語やゲルマン語、ケルト語、スラブ語など)の言語が入ってくる前にヨーロッパの地域で話されていた古い言葉の生き残りという説もあるのですが、まだこの言語の由来に関する定説は確立されていないようです。

アイヌ語・ニヴフ語

先ほど日本語について触れましたが、北海道や千島列島、樺太で話されていたアイヌ語もまた孤立した言語だとされています。アイヌ語は日本語とはあまり関連が強くなく、またその他の関連のある言語も今のところ見つかっていません。「札幌」「稚内」など北海道の独特の地名の由来になったということで、我々にも馴染みの深い言語です。言語学者として名高い金田一京助氏が生涯をかけてこのアイヌ語の研究を行なっていました。金田一氏に見出されたアイヌ人の知里幸恵が弱冠19歳で著した『アイヌ神謡集』はアイヌの神謡=カムイユカラの貴重な資料として今でも多くの人々に愛読されています。また、最近では漫画「ゴールデンカムイ」でも注目を集めました。現在では母語話者が10人前後となってしまっているそうで、言語の存続の危機に瀕しています。
そして、そのさらに北、樺太北部や対岸のユーラシア大陸アムール川河口域に住んでいたニヴフによって話されていたニヴフ語(ギリヤーク語)もまた孤立した言語です。アイヌとは昔から交流はあったようですが、言語としてはお互いに関連性がないと考えられています。不思議ですね。またニヴフ語自体も方言による差異が大きい言語で、樺太の中でも遠い地域に住んでいるニヴフでは意思疎通が難しいほどだそうです。チェーホフの「サハリン島」、そしてその引用という形で村上春樹の「1Q84」にも登場しています。

ピダハン語

ピダハン語はブラジルのアマゾンに居住する先住民族、ピダハン族の言語です。ムーラ語の一方言ですが、他の方言はすでに消滅しており現在ではこのピダハン語だけが話されています。この言語が注目を浴びたのは、『ピダハン — 「言語本能」を超える文化と世界観』という書物において、著者のダニエル・エヴェレットがこの言語には再帰が存在しないと主張したことによります。ダニエル・エヴェレットはピダハン族にキリスト教を伝道しようとピダハン族と生活するようになったものの、彼らがすでに幸せだということに気づき伝道を諦め、言語学者となってピダハン語を研究するようになったという人物です。
再帰というのは「首のギラついた鳩を見る首のギラついた鳩(を見る……)」のように文章を入れ子構造にできる仕組みのことで、この再帰がない言語ということはつまり長い文章を作ることが困難であるということを示しています。これは現代言語学の主流であるチョムスキー言語学、つまり人間は生まれながらに言語能力を持っており、そのために人間の言語には普遍的な特徴があるという説を覆す可能性があると唱えたのです。
さらにもう少しわかりやすいこの言語の特殊性としては
数の概念がない(より少ない、より多いといった認識)
色の語彙がない(明暗の語彙しかない)
音素が少ない(母音と子音をあわせて10個のみという説がある)
・音高が重要な役割を果たしており、口笛にも鼻歌にも変換できる
といったものがあります。再帰の件も含め異論も多く出ているのですが、とにかく非常にミニマムな要素で構成された言語の一種であることは間違いなさそうです。コミュニケーションを取るために、最低限必要な要素についてこの言語は考えさせてくれます。

センチネル語

インド洋東部に浮かぶ北センチネル島。アンダマン諸島に属すこの小島にセンチネル語を話すセンチネル族は住んでいます。彼らは外界との接触を拒否し続けており、もし島に近づくものがいれば矢の雨を降らせて容赦なく撃退します。そのため彼らが話すセンチネル語は、「孤立した言語」の可能性もあるものの、そもそもデータ不足のため分類さえままならない「未分類言語」だとされています。歴史的にも外との接触が極端に少なく、病原菌に対する免疫が非常に弱いと考えられるため、インド政府は彼らに干渉しない方針を打ち出しています。

番外編:フィンランド語・エストニア語とハンガリー語

最後に「孤立した言語」ではありませんが、遠く離れた国で話されている言語に関連があるという例を挙げておきます。北欧のフィンランド・エストニアと中央ヨーロッパのハンガリーは遠く離れていますが、これらの国ではすべてウラル語族フィン・ウゴル語派に属する言語が話されています。フィンランド語エストニア語のグループとハンガリー語は今では意思疎通が不可能ですが、言語的には彼らがもともと近縁の民族だったことを示しています。実際これはY染色体ハプログループを使った遺伝子調査などからも同様に推測されるそうです。
フィンランドでは

『ウラル語族』のなかの愚かな人々がうっかり定住するところを間違えたのがわれわれフィンランド人だ(それに対し賢かったのはハンガリー人(マジャル人))

https://ja.wikipedia.org/wiki/フィン人#歴史

というジョークが語られているそうです。

ちなみにハンガリー語で塩は「só」(発音はシオに近い)、塩味が薄いことを「sótalan」(シオタラン)というそうで、以前「トリビアの泉」でネタになったそうです。

ということで、孤立した言語についていくつか見てきました。今回紹介してみた中ではバスク語、フィンランド語、エストニア語、ハンガリー語がGoogle翻訳可能なので、ぜひ翻訳して遊んでみてください。それではまた。

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